Sweet Love
 …が、がっついてなんか…。



 わたしは思わず頬を膨らませた。彼はククッと声を漏らしながら肩を揺らす。



「…ちょ、ちょっと、そんなに笑わなくたって」

「…ちょ、…ちょっと…待って」



 どうやら、かなりツボにはまったらしい。笑える要素なんてあっただろうか? ともかく、彼は一度ツボにはまると、なかなか抜けられないみたいだ。



 ――そんなに笑われると、恥ずかしいのですが…。



「……」

「…はあ。本当に石田見てたら面白い」



 ――いや、全然笑えないんだけど…。



「それって、…失礼じゃない?」

「いや、良い意味で。コロコロ表情変わるから、見てたら面白い」

「…そんなに変わる?」

「うん。さっき顔が赤くなったと思ったらすぐいじけるし、俺が笑ったら眉間に皺寄せて難しい顔してるし、本当顔に出過ぎてわかりやすい」

「えっ。なんか嫌だ、それ」

「…いいじゃん。なんか素直で。もう一個あげるから、機嫌直せって」

「…食べ物で釣らないで!」



 睨んでみたけど、萩原くんにはちっとも効いていないようだ。顔に余裕の笑みを浮かべている。



「まあまあ、…そう言わずに」



 手で宥められながらも、彼はもう一方の手で、勝手にキャラメルの包みを開けようとしている。


 片手で器用に中身を取り出してから、彼のもう一方の手がわたしの顎を押さえた。


 こちらの口を強制的に抉じ開け、彼は持っていたキャラメルを、わたしの口の中へ放り込む。


 不意打ち的な行為に終始驚き、わたしは固まったまま口を閉じた。それでも、口の中では舌先でキャラメルを転がしている。



「あ、キャラメル効果で効いた? …機嫌直った?」

「…う…ん」

「石田って、…単純」

「……まあね」



 彼の調子にまんまと乗せられたわたしは、もういいや、と諦めた。



 ――あんなことされたら…誰だって敵わないよ。



 萩原くんとそうこう話している内に、もういつもの停留所に着いてしまう。


  バスを降りたあと、萩原くんが座っている窓側の方に振り向いた。彼もこちらを見ている。少し恥ずかしかったけど、わたしは手を振った。
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