Sweet Love
「松田って…」



 そう呟いて、萩原くんは言葉を止める。そのまま唇が閉じていくのを見て、わたしは尋ねた。



「…どうしたの?」

「うーん…何ていうか…確証はないから今は何とも言えない」

「え?」



 ……どういう意味だろうか。



「それより急いだら? …日誌」



 確かに急いだ方が良い。兄ちゃんを待たせていることを思い出し、わたしもそれ以上尋ねるのは止めた。



「…あ、うん」



 と頷いてから、停止してしまった手を再開させる。


 それから約五分後。



 ――なんとか日誌終わった…。



「…終わったあ」



 わたしは両腕を上げ、大きく伸びをした。



「じゃあ、俺が置いてくるよ。…貸して」

「え、でも」



 ガタッ、と音を立て、彼は椅子から立ち上がる。



「いいよ。前回持って行ってくれたし」



 と、仄かに微笑む。



「…あ、ごめん」



 わたしの机からサッと日誌を奪っていく萩原くん。そのまま歩き出す彼を見て、わたしは慌てて椅子から立ち上がった。



「あの、……ありがとう!」



 萩原くんは教室に出ようとドアに手を掛けながら、こちらを振り向いた。



「先帰ってていいよ。兄ちゃん待ってるんだろ?」



 ニカッと歯を見せながら、萩原くんは「じゃあな」と言う。わたしにお礼を言う隙も与えず、すぐに教室を出て行ってしまった。


 出て行った方を唖然と見つめて、わたしはしばらく固まっていた。



 ――何あの笑顔。あの、あどけない笑顔は反則だ。胸がキュンってなった。キュンって。

 あんな笑顔向けられたら、帰りたくなくなってくる。でも……仕方ない。ここは一先ず、萩原くんに甘えておこう。



 今日は兄ちゃんとの約束が優先だ。なんたって、お母さんの誕生日が絡んでいる。それがなければ、間違いなくわたしは兄ちゃんとの約束をすっぽかしていたと思う。


 わたしは帰る準備を速やかに済ませると、鞄を持って玄関に向かった。今日は玄関で兄ちゃんと待ち合わせという話になっている。
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