Sweet Love
 朱菜ちゃんがゆっくりとこちらに歩み出す。


 彼女は表情を崩すことなく、わたしに手を差し出してきた。



「…大丈夫ですか?」



 わたしに敵意を抱いているはずなのに、どうして…?


 不信感たっぷりの眼差しでわたしは彼女の様子を窺う。彼女の思惑がわからない。わたしは、戸惑いながらも朱菜ちゃんの手を借りて立ち上がる。



「あ、ありがとう」

「…よし行くぞ。遅くなっちまう」

「あ、うん」

「あの、これからお出掛けですか?」



 突然、朱菜ちゃんがわたし達を呼び止めた。



 ――何か企んでいる…?



「…ああ。これから雑貨屋に用があって」

「もしかして、…駅前のところですか?」

「…そう、だが」



 兄ちゃんは、困ったような表情で朱菜ちゃんとわたしの顔を交互に見てくる。



「よろしければ、わたしもご一緒させて下さい。わたしも見に行きたいと思ってたんです。一人で行くのは退屈なので、是非ご一緒させて頂ければ嬉しいのですが…」



 そう言った朱菜ちゃんは、わたしをちらりと一瞥した。


 朱菜ちゃんも、同行するの?


 わたしは、居た堪れない気持ちになって俯いた。



「俺は、構わないが…」



 顔を上げると兄ちゃんと視線が合う。



「あ、うん。…いいよ」



 ――いいよって言っちゃった…。

 だって兄ちゃんが、…居たから。



 この状況で断るのは不自然だろう。兄ちゃんが居る以上、断るのは無理だ。わたしには頷く選択肢しかなかった。



「それでは、…行きましょうか」
< 95 / 199 >

この作品をシェア

pagetop