Sweet Love

「あの、…石田さん」

「…はい…？」

「別にもう、わたしに気を遣わなくてもいいんですよ」

「え…？」



　わたしは立ち止まって、彼女の言葉に目を丸くした。今まで歩いていた彼女も足を止める。


　朱菜ちゃんは仄かに微笑んで、言葉を重ねた。



「わたしに対して、遠慮なんてしないで下さい。まあ、わたしはまだ翔くんのこと全然諦めてないですけど」

「…でも」

「翔くんのこと好きなら本気で立ち向かわないと、わたしが取っちゃいますよ？」

「……それは」

「はっきり言うと、そんな人がライバルなんて、わたしにしてみたらつまらないんです」

「……」

「それに石田さんって鈍いし、どこかふわふわしてるし。本当に見ていてイライラします」



　朱菜ちゃんの毒舌ぶりに気圧されて、わたしは言葉に詰まった。



「…まあ、頑張ってください」



　優しく微笑んで、彼女はそう言った。今まで見せたことない笑顔だった。


　何だか朱菜ちゃんに背中を押されているような気がする。言い方は確かにきついけれど、なんとなく彼女の言いたいことは伝わった。



「…あ、ありがとう。わたしも花咲さんに負けないように、…がんばる」



　弱々しく小さな声でそう言うと、朱菜ちゃんは再び柔和な笑顔をわたしに返した。



　――朱菜ちゃんは、多分このことを伝えたくて、ついて来たんだ…。

　わたし、…萩原くんに伝えてもいいんだ。



　もやもやしていた気持ちが少しずつ晴れていく。今まで悩んでいたことが嘘のように薄れていく感覚だった。


　わたしは朱菜ちゃんの前で自然に笑みをこぼしていた。



「…大分離されてしまいましたね」



　そう言われて何気なく前方を見ると、兄ちゃんの姿がかなり遠くなっている。わたしと朱菜ちゃんは、兄ちゃんの後を急いで追い掛けた。