だから俺様は恋を歌う
第十話 モブがモブであるために
いろいろあって、週末。
せっかくの休みだっていうのに気持ちが晴れなくて、ボーッと机に向かっていた。パソコンで大好きなアニメを流しているけれど、全く頭に入ってこない。元気にもならない。
あれ? 私、オタクだったよね?って気分になる。別にオタクであることにアイデンティティを見出しているわけではないけれど。
原因はわかっていた。
ものすごい自己嫌悪に苛まれているからだ。
昨日、部室に戻ってから顛末を聞かせたサナにも、「それはメーちゃんが悪いよ」と言われた。隠していようと思っていたのに、カバンを取りに戻ったら結局様子がおかしいのがバレてすべて話すことになってしまったのだ。
「キンヤくんは何も悪いことしてないじゃない」
そう言われて、私は自分が北大路に八つ当たりしてしまったのだと気がついた。
北大路が私に話しかけるから白川にあんなことを言われてしまった……なんて思ったけれど、別に北大路が悪いわけではない。
傷つけられた気持ちを、そのとき当たりやすかった北大路にぶつけただけだった。そんなの、北大路と話したいのに話しかけられない苛立ちを私にぶつけた白川と同じだ。めちゃくちゃダサいし、卑怯だ。
そのことに気がついたら、ギュッと胸の奥が重くなって苦しくなった。
大抵のことは一晩寝れば忘れてしまう質なのに、今朝は全く気持ちが晴れなかった。
白川たちの物理的な嫌がらせは未然に防ぐことができたし、釘を刺すことができたからこれ以上悪化はしないと思う。恵麻ちゃんや葉月に迷惑もかからないはず。それは、サナも安心していいと言ってくれた。
でも、北大路のことを考えると気が重い。
嫌いだったかもしれないけれど、あんなことを言って傷つけていい理由にはならない。
でも……嫌いだったというのも自分の中でよくわからなくなってしまっていた。
もう部室にいるのも気にならないし、一緒に曲作りだってした。それなのに、よく知る前と同じように嫌いだと言い切ってしまえるのだろうか。
「何で、メーちゃんはあんなにキンヤくんのこと嫌うの?」
昨日の帰り道、サナにそう尋ねられて、私は北大路を、というより地味の対極にあるような人種を嫌う理由を話した。
でも、全部話し終わったあとサナに「それもキンヤくんには関係ない事情じゃない」と言われてしまったし、話しながら自分でも感じていた。
要するに私は、北大路本人に理由がないことであいつを嫌い、北大路に関係のないことで八つ当たりをしてしまったのだ。
「……サイテー」
自分ひとりの部屋にその声は無駄に響いて、ズキンと胸に突き刺さった。
私は一体、何と戦っていたんだろう。
地味なことにコンプレックスなんてないし、オタクであることも別に恥じてなんていない。モブで上等だと思って生きている。
――自分たちを中心に世の中がまわっていると思っている連中に、踏みにじられさえしなければ。
でも、踏みにじられることを恐れて、攻撃的になりすぎていたのかもしれない。
今回の白川たちみたいに実際に攻撃されたのなら噛み付けばいいだけで、何もさせる前からひどい態度をとっていたのは良くなかった。
北大路の悪いところと言えば……俺様なところだけだ。あの俺様な態度が反射的にひどい態度をとらせていたと言えなくもないけれど。
月曜、学校で謝らなくちゃ。こういうのはメールじゃダメだから――そう思って不貞寝を決め込もうとしたとき、インターフォンが鳴らされた。
誰だ。土曜の昼間にピンポン鳴らすのはセールスか宗教の勧誘か。でも、町内会とかだったら困る。
お父さんもお母さんも土曜でも仕事に行っているし、兄ちゃんもバイトだ。出られるのは私しかいない。
しかも、かなり鳴らし続けている。
とりあえず、モニターで誰が来ているのかだけでも確認しよう。
「……おい、ヘアセットなら自分の鏡を見てやれよ」
急いでリビングに降りてモニターを覗いて、私は自分のこめかみに青筋が立つのを感じていた。タイムリーな人物ではあるけれど、やっぱりこうして見ると、そのナルシストな仕草がいちいい癇に障る。
「あのさ、ナルシストの押し売りならお断りなんで帰ってもらえますかー?」
「姫川ー!」
手櫛でしきりに前髪を整え続けながらインターフォンをピンポンピンポン鳴らす北大路にそう言ってやると、やつは嬉しそうにブンブンと手を振ってきた。何なんだ。家なんて教えるんじゃなかった。
「どうしたの? あがる?」
玄関のドアを開けると、北大路が背筋をしゃんとして待っていた。
「いや、一人で留守番中のところに上がり込むなんていう不誠実なことはしない」
何でそこ顔赤らめるの。不誠実なことってあんた、何するの。
「一人って何で知ってるの?」
「真田に聞いた。というより真田に、『土日は大抵留守番だから遊びに行っても大丈夫だよ』って教えてもらったから」
「あの子……」
「学校では話しかけるなって言われたから、こうして来てみたんだ。今からちょっと話せるか?」
「……うん」
私は返事をして、一歩外に出ようとして気がついた。この服装はいかん!
「ちょっと待ってて!」
せっかくの休みだっていうのに気持ちが晴れなくて、ボーッと机に向かっていた。パソコンで大好きなアニメを流しているけれど、全く頭に入ってこない。元気にもならない。
あれ? 私、オタクだったよね?って気分になる。別にオタクであることにアイデンティティを見出しているわけではないけれど。
原因はわかっていた。
ものすごい自己嫌悪に苛まれているからだ。
昨日、部室に戻ってから顛末を聞かせたサナにも、「それはメーちゃんが悪いよ」と言われた。隠していようと思っていたのに、カバンを取りに戻ったら結局様子がおかしいのがバレてすべて話すことになってしまったのだ。
「キンヤくんは何も悪いことしてないじゃない」
そう言われて、私は自分が北大路に八つ当たりしてしまったのだと気がついた。
北大路が私に話しかけるから白川にあんなことを言われてしまった……なんて思ったけれど、別に北大路が悪いわけではない。
傷つけられた気持ちを、そのとき当たりやすかった北大路にぶつけただけだった。そんなの、北大路と話したいのに話しかけられない苛立ちを私にぶつけた白川と同じだ。めちゃくちゃダサいし、卑怯だ。
そのことに気がついたら、ギュッと胸の奥が重くなって苦しくなった。
大抵のことは一晩寝れば忘れてしまう質なのに、今朝は全く気持ちが晴れなかった。
白川たちの物理的な嫌がらせは未然に防ぐことができたし、釘を刺すことができたからこれ以上悪化はしないと思う。恵麻ちゃんや葉月に迷惑もかからないはず。それは、サナも安心していいと言ってくれた。
でも、北大路のことを考えると気が重い。
嫌いだったかもしれないけれど、あんなことを言って傷つけていい理由にはならない。
でも……嫌いだったというのも自分の中でよくわからなくなってしまっていた。
もう部室にいるのも気にならないし、一緒に曲作りだってした。それなのに、よく知る前と同じように嫌いだと言い切ってしまえるのだろうか。
「何で、メーちゃんはあんなにキンヤくんのこと嫌うの?」
昨日の帰り道、サナにそう尋ねられて、私は北大路を、というより地味の対極にあるような人種を嫌う理由を話した。
でも、全部話し終わったあとサナに「それもキンヤくんには関係ない事情じゃない」と言われてしまったし、話しながら自分でも感じていた。
要するに私は、北大路本人に理由がないことであいつを嫌い、北大路に関係のないことで八つ当たりをしてしまったのだ。
「……サイテー」
自分ひとりの部屋にその声は無駄に響いて、ズキンと胸に突き刺さった。
私は一体、何と戦っていたんだろう。
地味なことにコンプレックスなんてないし、オタクであることも別に恥じてなんていない。モブで上等だと思って生きている。
――自分たちを中心に世の中がまわっていると思っている連中に、踏みにじられさえしなければ。
でも、踏みにじられることを恐れて、攻撃的になりすぎていたのかもしれない。
今回の白川たちみたいに実際に攻撃されたのなら噛み付けばいいだけで、何もさせる前からひどい態度をとっていたのは良くなかった。
北大路の悪いところと言えば……俺様なところだけだ。あの俺様な態度が反射的にひどい態度をとらせていたと言えなくもないけれど。
月曜、学校で謝らなくちゃ。こういうのはメールじゃダメだから――そう思って不貞寝を決め込もうとしたとき、インターフォンが鳴らされた。
誰だ。土曜の昼間にピンポン鳴らすのはセールスか宗教の勧誘か。でも、町内会とかだったら困る。
お父さんもお母さんも土曜でも仕事に行っているし、兄ちゃんもバイトだ。出られるのは私しかいない。
しかも、かなり鳴らし続けている。
とりあえず、モニターで誰が来ているのかだけでも確認しよう。
「……おい、ヘアセットなら自分の鏡を見てやれよ」
急いでリビングに降りてモニターを覗いて、私は自分のこめかみに青筋が立つのを感じていた。タイムリーな人物ではあるけれど、やっぱりこうして見ると、そのナルシストな仕草がいちいい癇に障る。
「あのさ、ナルシストの押し売りならお断りなんで帰ってもらえますかー?」
「姫川ー!」
手櫛でしきりに前髪を整え続けながらインターフォンをピンポンピンポン鳴らす北大路にそう言ってやると、やつは嬉しそうにブンブンと手を振ってきた。何なんだ。家なんて教えるんじゃなかった。
「どうしたの? あがる?」
玄関のドアを開けると、北大路が背筋をしゃんとして待っていた。
「いや、一人で留守番中のところに上がり込むなんていう不誠実なことはしない」
何でそこ顔赤らめるの。不誠実なことってあんた、何するの。
「一人って何で知ってるの?」
「真田に聞いた。というより真田に、『土日は大抵留守番だから遊びに行っても大丈夫だよ』って教えてもらったから」
「あの子……」
「学校では話しかけるなって言われたから、こうして来てみたんだ。今からちょっと話せるか?」
「……うん」
私は返事をして、一歩外に出ようとして気がついた。この服装はいかん!
「ちょっと待ってて!」