君がいたから~私が決めたこと~
side ~chat~
「ちゃんと質問してきたね、いいよ。僕もちゃんと話すから」
「うん...」
僕...
いや、俺は一回死んでる。
って言っても物理的じゃない。
記憶が無い、ただそれだけ。
気づいたらこの街のこのマンションの前にいた。
そしてその日の夜に慣生と出会った。
あの日、管理人さんが俺を知ってたから部屋まで行くことが出来た。
整えられた部屋
綺麗なキッチン
カビ一つないお風呂
完璧で綺麗すぎる部屋に吐き気がした。
そんな時にたまたま窓を開けると今にも消えそうな声で、
『私は世の中から外された人間だったんだなぁ』
それを聞いた時、何かが俺の中ではじけた。
助けを求めているのかもしれない。
だから...
『なんでこんなことになったんだろう...』
と聞こえてきた時すぐに
『それは、僕と会うためじゃない?』
その言葉は自然と出ていた。
なにが僕だ。俺は僕じゃねーだろ。
『そんなわけ...』
言葉が途中で止まった。
きっと下の階から声が聞こえてるなんて思ってもないだろうな。
『僕の場所がわからないんでしょ?』
『あなたは誰?』
『僕?』
『他に誰がいるの』
まさか名前を聞かられるとは思わなかった。
俺に名前なんて...
そんなことを考えていた。
なのに、また自然と...
『僕はね、猫だよ』
『は?』
何を言っているんだ。
まるで誰かに操られてる気分だった。
それからその子の顔が見たくなって、無理やり展望フロアに行った。
その子...慣生は生まれつきであろうこげ茶の髪を揺らし、化粧をしてなくてもぱっちり開いた2重の瞳をこっちに向けて窓の外に立って、
後ろの夜景が嫌という程綺麗に輝いていた...。
(慣生ごめん。本当のことは半分だけだけど、ここまでしか言えないよ。
これ以上君に気を使ってほしくないから)
いつの間にか君がそばにいるのが普通になっていた。
かけがえのないものに変わっていた。
だから、嫌だったんだ。