君がいたから~私が決めたこと~

25階建てのマンションの最上階の展望フロア。
一角の窓を開けて、足を外に出して下の階の少ししかない屋根に降りる。




ねぇ。きっとあんた達はこれを望んでいたのかもしれない。
いや、望んでた。
私に言ったんだから。

『あんたはこの世に生まれて、することあるの?』

これだけならまだ良かったの。
耐えられたはずなの。

『おいあんた、いい加減にしてくれない?目障り。産むんじゃなかったわ。あなたが面倒見てちょうだい』
『はぁ?お前が産んだんだろうが、お前が最後まで面倒みろよ』

味方でいてくれたはずの両親。
今の今までは優しかった。
なのに...。


「私は世の中から外された人間だったんだなぁ」
過去形なのはいなくなるから。

「なんでこんなことになったんだろう...」
「それは、僕と会うためじゃない?」
「そんなわけ...」
私は誰と会話をしているんだろう。
周りを見渡しても誰もいない。

「僕の場所がわからないんでしょ?」
また聞こえた声。
姿が見えないと不安になるのが人間の心理。
私の場合は人間かどうかも怪しいけど...。

「あなたは誰?」
「僕?」
「他に誰がいるの」
こいつはアホなのだろうか?
名前を聞いても仕方が無いけど

「僕はね、猫だよ」
「は?」
猫?

「そんな訳ないじゃない。」
「ほら、僕の姿見えないでしょ?猫はさ、走るの早いから」
「速すぎでしょ。しかも、猫は喋りません」
「そう?それより君、名前は?」
「私は...名前なんかない」
「いやいや、あるでしょ」
だって、これから死ぬんだから。

「君は他の誰でもない。君は君」
「君にはわからないよ。私が考えてることなんて」
誰にもわからない。

「分かるわけねーだろ。被害者ぶるな。そんなに自分が可哀想か」
「...」
彼は何がしたいのか。
名前を聞かれたから素直に答えただけなのに、怒られた。

「名前を教えたくないんだったら、それでもいい。無理には聞かない」
「別にそういう訳じゃ...」
「じゃあ、名前は?」
この人、名前が聞きたいだけなんじゃ...。

「ひ、人に名前聞く時は自分から名乗るものじゃないんですか...?」
「僕は君に聞いたの。しかも、猫って答えたじゃん」
「...意外と強引」
「初めて言われた」
「山下慣生」
「え?」
「私の名前は山下慣生」
「へぇ~、ななって漢字は?」
「慣れるっていう字に生きる」
「珍しい漢字だね」
「よく言われる」
この人と話してると自分の調子が狂う。
諦めの方が正しいけど。

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