ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく

『世那、今日はピアノをやりましょう』

習い事や塾は外だけじゃない。家では母さんが大きなグランドピアノの前で待っている。職業柄まるで先生と生徒のように母さんは俺にピアノの教えてくれた。

『じゃあ、今日弾くのはこれね』

それはエーデルワイスという曲。

楽譜の読み方も音符の記号もまだ学校では習っていないのに俺は完璧にピアノを弾きこなした。

広い家に響く鍵盤の音。

このグランドピアノは相当高価なもので音が全然違うと母さんはいつも自慢気に言っているけど、小学校に置いてあるピアノとの音の違いは俺にはよく分からない。

俺がピアノを弾いてる中、外のテラスでは親父が英字新聞を読んでいた。四季折々に景色を変える洋風の庭。そこには園芸が趣味の母さんが手塩にかけて育てた花が咲いていた。

そこには今弾いている曲と同じエーデルワイスの花もある。風に吹かれて気持ち良さそうに揺れていて。たまにあの花のほうが自由に生きてるんじゃないかって思う時がある。
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