ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく
「世の中には知らないほうがいいこともあるよ。詩月のおばあちゃんが秘密にしてたってことは、それなりの理由があるからなんじゃない?」
他人事だからなのか私はビックリするぐらい冷静だった。
知らないほうがいいこともある、なんてどの口が言ってんだって話だけど。どうせ詩月だって最後にはお前のせいだって後悔するんでしょ?
そして見えたことは全て私の虚言だって、そんなことあるはずないって、私を疑うんでしょ?
「俺もそう言い聞かせて2年間過ごしてきたけど……なんていうか俺、ずっと空っぽなんだよ」
「………」
「たまに俺は誰なんだろうって。どんな風に育って、どんな家で暮らして、なんで記憶喪失になったんだろうって。2年間で作られた自分なんてもう嫌なんだよ」
そうか。
だから詩月の心の中は真っ白だったんだ。
おはぎって名前の猫との記憶しかなくて。それはつまりこの2年間で心や頭に留まるような強い感情が詩月にはなかったということだ。
学校でもカメレオンのように人によって色を変えて。きっと詩月の中で〝今の自分は本当の自分じゃない〟って気持ちがあったから人と深い関係になれなかったんだと思う。
「寂しいの?」
「うん」
「苦しいの?」
「うん」
「ひとりぼっちなの?」
「……うん」
うん、が3回。最後の返事は重かった。
私はゆっくりと日陰から足を出してジリジリと暑い太陽の下に行った。屋上の手すりに手をかけて、夏の匂いがする風を肺に入れて大きな息を吐く。