ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく
「大変だよな。ライバルが一番近くにいると」
「……分かるの?」
「分かるもなにも、どう見てもお互いに競い合ってんじゃん」
どう見てもって私には仲のいい普通の友達同士に見えるよ。きっと本人たちだってお互いの気持ちを探り合いながら、そういう自分たちを必死で演じている。
「すげー面倒くさそう」
詩月の顔はいつもの笑顔じゃない。
あ……って思った。
だって誰でも心に悪魔を飼っていて。その悪魔を嫉妬や憎悪、悪口で育てているくせに表ではみんな天使のふりをする。
詩月だってそうだ。
毎日友達に囲まれて、いつもニコニコと笑って。人の悩み相談を聞いて、ちょっと有名人気取りで。
なのに今の詩月の視線は冷たい。
ニコニコと可愛い顔。みんなの話に笑顔で合わせている顔。草むしりごときにライバル心をむき出しにするふたりを見下している顔に、私に頼みごとをする真剣な顔。
詩月の本当の顔はどれなんだろうって。
きみがなくした記憶に少しだけ興味がわいた。
「記憶……少しだけなら手伝ってもいいよ」
気づくと私はそんなことを言ってしまっていた。
「本当に?」
「少しだけだよ」ともう一度繰り返すと、詩月はいつもの顔でニコリと笑った。