ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく

――と、その時。「ニャアア」と可愛らしい声がして気づくと〝あの猫〟が私の傍にすり寄ってきた。

目がくりくりとしていて、おはぎって名前のとおり黒くて丸い。私がそっと撫でると嬉しそうに喉を鳴らしていた。

「そいつ迷い猫なんだよ。フラフラってたまにいなくなるし別の家からもエサとか貰ってるっぽいし。おはぎからして見たらうちは沢山ある家のひとつなんだよ。なあ?」

次に詩月が撫でると目を細めて甘えていた。

こんなに可愛い顔して要領がいいんだね。

それにしても猫や動物はいくら触っても思念が読み取れないからラクだ。

動物にも感情はあると思うけど人間みたいに複雑じゃなさそうだし、なにより生きていく上で面倒なことを考えないで済みそう。


「……家族のこと、なにも分からないって言ってたけど両親が今なにをしてるとか聞いたことはなかったの?」

おはぎで癒されながら素朴な疑問が頭に浮かんだ。


「ばあちゃんの話だとどっちも死んでるってことだけ。詳しいことは本当になにも」

「……写真とかないの?」

「家中探してみたけど1枚もないんだよ。まあ、ここが自宅だったわけじゃないし写真を撮る文化がうちにはなかっただけかも」


詩月は呑気にあはは、と笑っていたけど、ますます私は疑問だらけだ。

ここがおばあちゃん家だろうと写真の1枚や2枚ぐらいあるでしょ。七五三とか入学式とかおばあちゃんにとって詩月は孫なんだから、ないのは不自然だ。

おばあちゃんは記憶に関することは一切教えてくれなかったらしいし、つまり写真も意図的に処分したとか?


……なんのために?

そもそも詩月の記憶が戻ることによって、なにか不利益になることがあったんだろうか。
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