ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく


詩月の家を出て私は少し遠回りをしながら家に帰った。

静かにリビングに向かうと、まるで神様のイタズラみたいに内側と外側で母と同じタイミングでドアノブに手をかけていた。

目が合って数秒。ドアを開けたのは母のほう。

……いつもならお風呂に入ってる時間なのに失敗した。もう少しだけ遅く帰ってくればよかった。


「……お、おかえり」

鉢合わせになった以上そう言うしかないみたいに、母の顔はひきつっているように見えた。

「あ、ご飯ならテーブルに用意してあるから……。じゃ、私さきにお風呂入っちゃうね」

「………」

母は足早に脱衣場へと歩いていく。


同じ家に住んでるのに私は母とまともに会話をしていない。

よくある思春期。反抗期の延長だったらどんなにラクだっただろうか。これはそんなに可愛らしいものではない。

もっと複雑でもっと真っ暗なもの。

例えるなら出口のない迷路みたいな、そんな感じ。


お風呂場からシャワーの音がして、それを確認したところでサランラップがかけられた冷えたご飯を私は食べる。

母のことを避けている私が母の作った料理を食べてるなんて、他人から見たら矛盾しているように見えるだろう。

だけどこれは母は母なりに、私は私なりに親子関係をギリギリで繋いでいる最後の綱のようなもの。

これがなくなれば、一緒に住んでいる意味などない。

それこそ本当に本当に家族でいる意味はなくなるのだ。
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