ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく
「うーん。最初は面白いかなってただの遊びだったんだ。俺放送部員じゃないけど、昼休みに音楽流すだけじゃ勿体ないなって」
「………」
それを許した先生も先生だと思うけど、そこが詩月の口の上手さなんだろう。
「でもそれは表の理由。本当はみんなどんなことに悩んでるのかなって思ってさ。記憶がないからなにを悩んでたとかなにに困ってたとか、そういうのも無くて」
「………」
「なんか見つかるかなとか、なんか引っ掛かるものがないかなとかそんな理由で始めた」
相談用紙を見つめる詩月のまつ毛が長くて綺麗で。そんなことを冷静に見ちゃうぐらい私はまだ傍観者だ。
そして私はいつもの野菜ジュースを飲んで、それもゴミ箱へと投げ捨てた。
「まさかそんな理由で相談コーナーをやってるなんて誰も思ってないだろうね」
「あ、でも相談は真面目に受けてるよ。人の役に立つと自分の存在を確かめられるっていうか……
必要とされるとなんか安心するじゃん?」
詩月はそう言ったあと、今日の相談を決めてマイクの前に座った。「しー」と私に合図をすると校内放送のスイッチをONにする。
『皆さんこんにちは。水曜日のなんでも相談コーナーの時間です』
部屋のスピーカーから詩月の声が聞こえて、やっぱりその声は喋ってる時より低い。
その大きな肩幅と少し丸まった襟足を見つめながら、私はさっきの詩月の言葉を思い出してた。
人の役に立つと自分の存在を確かめられる?
必要とされてると安心する?
詩月は私が思うよりもずっと弱いのかもしれない。そんな薄いガラスの心じゃ触れただけですぐに壊れてしまうんじゃないかな。
だから私は絶対に触らせない。自分が脆いことを知っているから。