ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく
そのあと放送が終わって昼休みも残りわずか。
私が教室に戻ろうとすると何故か詩月に止められた。
「ちょっと付き合ってよ」
詩月はそう言って向かいのB校舎を指さした。
付き合ってよって、さっきの放送は付き合っていないことになるんだろうか。まあ、教室でパンを食べるより静かで快適だったけど。
「きて」
詩月が私の手を掴む。
こんなに躊躇なく人に触れられてたのは久しぶりだ。それで、それを許したのは何年ぶり?
人の肌の体温なんて忘れかけていたけど、こんなに温かかったっけ?
詩月に手を引かれながら生徒の出入りが少ないB校舎へと歩く。やっぱりその間、手と手が触れ合ってるのに詩月の心は空っぽだった。
着いた先は音楽室。
窓が閉めきられて空気が暑かったけど、詩月は窓を開けると白いカーテンが揺れて爽やかな風が吹き抜けた。
「ここって静かだから落ち着くんだよね」
詩月はそう言いながらピアノの椅子に座る。
「弾けるの?」
「少しなら」
鍵盤(けんばん)から響くのは私でも知っているエーデルワイス。
ベートーベンやバッハの絵が壁に飾られていて、色素の薄い詩月の髪の毛がゆらゆらと動く。ここが学校だと忘れるぐらいピアノの音しかしなくて、そのなめらかに動く長い指先とメロディーがなんだかとても心地いいものに感じた。
「ここまでしか分からないんだけどね」
詩月の指が途中で止まる。