ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく

「エーデルワイス好きなの?」

「いや、全然。でもなんか不思議と楽譜も見ないで弾けるんだよね」

たしかに楽譜はない。あんなに流れるように弾いていたのに。


「……それってなくした記憶と関係があるんじゃないの?」

脳が忘れても体が覚えてることってあるらしいし。


「うーん。じゃ、羽柴このピアノ触ってみて」

「………」

なんだか頼まれて触るのはやっぱり慣れないけど、とりあえず触ってみた。だけどなにも浮かばない。そりゃ、そうでしょ。

すべてのモノに思念が宿るわけじゃないし、学校の私物なんてキズつけても壊しても、みんな自分のモノじゃないって思ってるから思い入れる人がいないんだと思う。


「あのさ、こういうのは自分が普段弾いてるピアノとか昔使ってたやつとか、そういう思い出がないとダメなの」

超能力と勘違いされやすいけど、色々と法則もあるからそれを説明するのも面倒くさい。


「詩月が両親と暮らした家とかが分かれば早いんだけど……」

「あ、それならわかるよ」

「え?なんで先にそれを言わないの?」
< 37 / 152 >

この作品をシェア

pagetop