ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく


そして週末。私は詩月に案内されて東和田市(とうわだし)という街にきた。電車を1回乗り継いで、1時間と15分。

普段電車移動なんてしないから、心地よい振動に揺られている内に私は居眠りをしてしまって詩月に起こされなかったら完全に終点まで行ってたかも。


「羽柴、よだれ出てた」

そんな詩月のからかいに冷たい視線を送りつつ私たちは改札口を抜けた。すぐに感じたのは潮の香り。そのおかげなのかとても涼しく感じる。

「もしかして海があるのかな?」

詩月に問いかけると返事がない。

その横顔は少し寂しそうに見えて、すごく遠い目をしていた。


「……なにか思い出したの?」

電車に乗っていた間、少しだけこの街のことを詩月に聞いた。


詩月はおばあちゃんにこの街のことを聞いたのではなく、たまたま住所変更する前のハガキが今の家に届いて。

そこに記載されていた住所を見て自分がこの街に住んでいたことを知ったらしい。

もちろんそのハガキはすぐにおばあちゃんに処分されてしまって、詳しい番地までは覚えてないんだとか。


「ちょっと懐かしい匂いがしたような気がしただけ」

詩月はそう言って歩きはじめた。


東和田市という場所に来たのは記憶をなくしてから初めてで、ずっとひとりじゃ来る勇気がなかったんだとか。だから私に感謝してると電車で言っていた。

まだなにも思い出せてないのに感謝されてもなあ……。
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