ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく

「俺は羽柴の名前知ってるよ。莉津(りつ)でしょ」

だからなんなの、と無言で睨んだあと私はさらに速い足取りで階段をのぼって教室まで急ぐ。

「羽柴ってぜんぜん話してくれないよな。もう高校がはじまって4か月経つのに。ってかあと2週間で1学期も終わって夏休みなのに」

「うるさい」

「あ、喋った」

「だからうるさい」

まるでカルガモのように私の後を付いてくる。
同じクラスだから仕方ないけど、本当に詩月みたいなタイプは苦手というか関わりたくない。

「ねえ羽柴。はーしば」

「だから……っ」

あまりのしつこさに勢いよく後ろを振り返ると、その反動で階段を一段踏み外して体がよろけてしまった。

ふわりと自分の髪の毛が宙に浮くのを見て、その瞬間。詩月が支えるように私の右手を掴んだ。

「あぶな……セーフ!」

ニコリと笑う詩月の顔がぼやけて視界に映る。

重なる指先。静電気のようにビリッと体に衝撃が走って。それと同時に頭の中に映し出された映像には『ニャアア』と可愛らしい黒猫が詩月の手を引っ掻いていた。


「……おはぎ……」

「え?」

ハッと我に返った時には猫の名前を呼んでいて、私は詩月から逃げるように階段をかけ上がった。  
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