ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく
「とりあえずどこに行く?」
広い街だし当てもなく歩くには無謀すぎる。かといって詩月自身は〝懐かしい〟って感覚はあるものの記憶はまだ真っ白なまま。
「俺も色々考えたんだけど中学校を探してみようかなって。ほら、14歳以前の記憶がなくても学校には通ってたはずだろ?」
……たしかに。
なにもないところから記憶を探るのは大変だなって思ってたけど、考えてみれば私の力を使わなくても詩月の同級生とか知り合いの人に会えば済む話だ。
詩月は分からなくても向こうは分かるはずだし、そしたらすぐに家族のこととか詩月のことを聞くことができるはず。
駅前の交番で地図を貸してもらって確かめたら、この街には中学校が三校あることが分かった。
とりあえず一番近い東和田西中学校に向かうことにした。
「羽柴の力って、どんな風に見えんの?」
その途中で詩月がアイスを買ってくれて私たちは食べながら歩く。
「どんな風にって……物体に触れて見えた思念はその場の雰囲気だったり持ち主の感情に比例して見えるから連写で撮られた写真みたいに一場面がバーッて見えてくるの」
バーッて、とか自分のボキャブラリーのなさに悲しくなる。
こんな感じだよって見せられたらいいけど、それができないから感覚で表現するしかない。
「じゃ、人から見える場合は?」
体感温度は涼しく感じるけどコンクリートの反射がきつくて、棒つきアイスがポタポタと溶けていく。
「その人の心と一体化する感じ。だから思いが強すぎると私まで影響して気分が悪くなる時もある」
「……そっか。つまり羽柴はあの時、母さんの心と一体化したってわけか」
「まあ」
「……母さんの心の中ってどんな感じだった?」
また難しい質問ばかりする。
「分かるのはその場の感情とか情景だけで心の中まではわからない」なんて、詩月の質問から逃げてしまったけど嘘。
あの時本当はすごくおばあちゃんとお母さんの間にわだかまりのような黒い感情を感じた。