ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく
「水着のお姉さんがいるよ。遊んでくれば」
詩月は絶対年上の人にモテる顔だ。肩幅も体格も大きいけど顔は甘い感じだし、その透明感のあるこの瞳で近づけば可愛がってもらえそう。
「いや、遊ばねーよ」
「興味ないんだ」
「興味は……ないこともないけど」
「へえ、じゃ、どんな人がタイプ?」
べつにこれはただの雑談。電車の時間までまだ余裕があるし、ぼーっと海を眺めているだけじゃ詩月が暇だろうと思ったから。
「それは記憶が戻った俺に聞いてみないと」
モヤッとした。
今の自分は仮だから好きなタイプすら分からないってこと?それともそんなことを考えても意味がないってこと?
それじゃ今の詩月は人間の形をしたただのロボットと同じだよ。詩月がどんな人だったのか知らないけど、人は早々に変われるものじゃない。
……いや、今の言葉、言霊のように自分に返ってきちゃった。
変わるね、人は。簡単に。
なにかきっかけさえあれば、なにかほころびができれば、私のように冷めた人になれる。
「なあ、羽柴の両親ってどんな人?」
「………」
なんでそれをこのタイミングで聞いてくるのかな。
ちょうど頭の中でそのことを考えていた。
「……さあ。お父さんは今頃浮気相手だった人と一緒になってるんじゃない?お母さんは……お母さんとはずっと長い間、話してないから知らない」
自分の身の上話なんて誰にも話さないって決めてたのに考える間もなく、詩月に話してしまっていた。