ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく

「羽柴!飲み物なんか飲む?」

人混みに紛れてやっと詩月の姿が見えた。

飲み物とかべつにいいのに自販機の前で止まってる。「いいから早くしないと電車が来ちゃう……」と詩月に駆け寄ろうとした時。

詩月はすれ違う人に背中を押されて、手に持っていた小銭が音を出して落ちていった。

……もう、なにをしてるんだか。


「あ、すいません」

ぶつかった男の子は謝って小銭を拾おうと中腰になった。だけど男の子は一瞬思考が止まったように停止して、慌てて足早に詩月から離れていく。

分からないけれど、これはただの勘。

あの慌て方は普通じゃないというか、ぶつかって驚いたって感じじゃなくて、詩月の顔を見た途端に表情を変えた。

その男の子は逃げるように改札口に走ってきて、私は通過する前に呼び止めた。


「あの……!」

その目はなぜか怯えているように見えた。


「今の……その、もしかして詩月と知り合いですか?」

べつに詩月の記憶探しに積極的ってわけじゃないし、気分が変わったらすぐにでもやめようと思っている。

だけどせっかくここまで来たんだから、なにか手がかりぐらい掴めればって思っただけ。だから私の行動に深い意味はなくて、ただ軽い気持ちでその男の子に声をかけていた。
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