ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく
「詩月ってたまにフラッといなくなるじゃん。
こうして放送室にいたの?」
「あと音楽室とか。学校でサボれるところはいくつも知ってるよ」
学校での詩月はたくさんの蜜を持った花のようで、そこになにもしなくても人が寄ってくる。
だけどそれは与えるばかりで、誰も花を満たしたりはしない。人知れず枯れていったとしても原因すら分からずに、また人は新たな花を探す。
「ねえ、詩月」
「ん?」
テーブルに顔を伏せていた詩月が私を見た。
ああ、本当に信用してるって目だね。そんなに気の抜けた顔をして今にも居眠りしそうなほど安心して。
私さ、ちょっと、かなり躊躇してるよ。
あの残像の中にいた詩月が消えない。
「もし記憶が戻る前の自分と今の自分がまったくの別人だったらどうする?」
不良と仲良くして裏で弱い人間からお金を奪って。目の前で殴られたり蹴られたりしても裏路地に捨ててあるゴミを見るのと同じ瞳で見下ろした。
本当に本当に別人みたいだった。
「うーん。だとしても受け入れるしかないじゃん?それも自分なんだし」
「………」
詩月は口調はあまりに他人事のようだった。
たしかに〝もしも〟なんて言い出したらキリがない。こんなのは億万長者だったらどうするって妄想を膨らませてるのと一緒だ。
伝えなきゃいけない。
詩月と私はそのための関係なんだから。
「羽柴、音楽聞く?ここだけに流してあげるよ」
詩月が放送室の機材を操作すると、スピーカーからメロディーが聞こえてきた。それはとても穏やかで今の詩月のように透明感がある曲。
その音に耳をすませながら、喉まで出かかった言葉をゴクリと飲み込んだ。