ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく
なんだかその背中が見慣れたものになってしまって、大人しくスピーカーから聞こえる詩月の声に耳を傾けた。
『今日最初の相談は3年4組の……』
暇だった。暇だったくせになんだかとても寝不足だ。詩月の低い声はやたらと眠気を誘ってまぶたが自然と重くなる。
私が詩月の連絡を無視したのは、こうして普通に顔を合わせるため。今まで数えきれないほどの思念を読み取ってきて、心を病んだものなんていくつもある。
だけどあの日。安田さんから読み取った2年前の思念。
彼女の心と一体化して、ざわざわと胸が騒いで。そして私も〝見てしまった〟詩月のあの横顔。
熱風で火傷しそうなほど熱い炎。
ずっとあの光景が頭から離れなくて、その余韻に苦しんで。やっと今、普通の私になっている。
安田さんに触れたことに後悔はない。あれは自分で決めたことだから。
またきみに一歩近づいて、言えないことが増えて。私の中に芽生えたひとつの可能性。
詩月の心が真っ白なのは、詩月の記憶が抜け落ちているのは誰のせいでもない。
自分で自分のことを閉じこめているんじゃないのって、そんな勝手な憶測ばかりを考える。