ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく


「なあ、もう一回見てみたいからなんか触ってみて」

保健室を出て教室に向かう廊下で詩月はずっとこの調子。

たしか詩月に私の力がバレた時もこうして追いかけられて階段から足を踏み外したんだっけ。

「適当に触れればいいってもんじゃないんだけど」

「それはそうだけど本当だったのか確かめてみたくて」

「本当でしょ。見えたなら」

「あんな風に自分がその場にいるみたいに見えるんだな。なんつーかリアルでビックリした」

「……なに興奮してんの」

「は、し、してねーし!」

まあ、見えた思念も思念だったし。私は慣れてるし、もっとすごいものを見てきてるからなんにも感じなかったけど。

「でもあんなものが毎日見えてるなら羽柴は大変だな。いつも眉間にシワを寄せてる理由がわかった気がする」

詩月が優しい顔で微笑んだ。

できるなら力ごと他の人に移ってほしいけど……
詩月には与えたくないな。この苦しさを詩月には知ってほしくないから。


「今日さ、うちにくる?」

どんな流れでそんな話しになったのかは分からない。

「なんで?」

不信感たっぷりな目。

「深い意味はないけど。しいて言うなら今日はおはぎの好きな食べ物用意したから多分撫でられるよ」

……なんだ。猫か。ちょっと動揺してまた足を踏み外しそうになったことは秘密にしておこう。
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