ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく
気まずいとかじゃなくて、こういう空気が死ぬほど苦手だから。女子たちは私には寄ってこなくて詩月ばっかり責められて可哀想だけど……ここで私が発言したら火に油を注ぐだけだ。
「ビックリするぐらい知らん顔したよね」
騒ぎがおさまらない教室で、私たちは人目を避けるように音楽室へと逃げこんだ。
「だって詩月のほうが口うまいじゃん。だからなんとかしてくれるかなって……」
他力本願で申し訳ないけど。
「なんとかって言われても事実も混ざってるしさ」
詩月はそう言ってピアノの椅子に座った。遊ぶように鍵盤に触れてド・レ・ミを繰り返し弾いている。
「……保健室まで運んでくれたなんて聞いてない」
女子たちが話す噂の中で私自身でも知らない情報があった。
「んーでもわざわざ言わなくてもいいかなって」
「………」
「軽くてビックリした」
「あっそ」
……せっかくお礼を言おうと思ったのに、また刺々しい言い方をしてしまった。詩月が適当に弾くメロディーを聞きながら、その指先がふいに止まる。
「本当に付き合ってることにしようか」
耳の奥で不協和音のような音がした。
知らない音。それは私の胸の中から。ガラス細工みたいにキレイな目で私を見つめてくる。
……やめてよ。そんな風に見つめられたら逃げたくなる。
「からかわないで」
私は不機嫌にそっぽを向いた。
「そのポーカーフェイスを崩したかったのに」
詩月はバカにしているのか真剣なのか分からない表情で、またピアノを弾きはじめた。それはあの日聞いたエーデルワイス。
結局この噂のせいで詩月が築いてきた評判は確実に下がってしまったと思う。それでも「これで羽柴と人目を気にしないで話せるな」と笑って言ってしまう詩月は私にとって、すごく眩しい人だ。