ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく
見間違いかと思って何度も確認した。だけどそれは紛れもない現実だった。
婚姻届を見た母は「あ……」と小さな声を出した。手に持っていた買い物袋を床に置くと慌てて言葉を足す。
「ち、違うのよ。これは……」
もう私の胸は張り裂ける限界だった。
毎日毎日コソコソと電話して。仕事帰りだと見せかけて本当はその人と会っていて。
それだけなら我慢はできた。干渉さえしなければ別にやり過ごせることだった。
それなのにまた私の知らないところで勝手に話を進めて……。なにも分からないまま、なにも知らないまま、かやの外にされたまま私は巻き込まれていく。
「再婚するの?」
母を鋭い目で睨みつけた。
「聞いて莉津。いつかちゃんと話さなきゃって思ってたの。今度は間違わないように慎重に話し合って、時期がきたら莉津にも話そうって」
嫌だ。気持ち悪い。気持ち悪い。
吐き気がする。
「だから莉津。とりあえず私の話を……」
「……っ、私に触らないで!!」
母が私の右手に触れた。ビリビリと頭に砂嵐が見えて、それが映像になる前にその手を振り払う。
私は悪くない。悪くないはずなのに母が悲しい顔をしていて、堪らずに外へと飛び出した。