ずっと好きだった。でも今は彼の事しか見えない。
そのスケベそうな男は燁子の肩や手をなでながら、名残惜しそうに店を後にし、燁子はその客の姿が見えなくなるまで手を振っていて、男が通りの角を曲がって視線を外したところの先に僕が居たんだ。

燁子は僕と目が合い、懐かしそうな顔をして、そんな表情をどこかで見たことがあったなと思っていたら、あの高校一年の時の文化祭で渡り廊下ですれ違った時の表情と同じだと思った。

燁子は辺りを少し気にしながら僕の方へ近づいてきて

「久しぶりね」

と言い

「今夜は遅くなるけど、明日は日曜日だし、午前中は時間あるから、会いましょう」

と言って連絡先を教えてくれて店の中に消えていった。

そうして僕は、知らない喫茶店のテーブルを挟んで、燁子と会っている。
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