魔法使いの森と魔女の館
目一杯の営業スマイルで、

「申し訳ありません。祖母は昨日から旅行に出かけてます。しばらく帰りませんので改めておいでください」

決まった。噛まずに言えた。私って天才。

ほら、私の極上スマイルに兵隊さんも何も言えないでいるわ。

「おかしいな。そんなはずはない」

そう、そう、そんなはず・・・ん?

「店主メルは3日前から一歩も外には出ていない。確認済みだ。どうして、そんな嘘をつく。まぁいい、今すぐメルに会いたい。急用だ。すぐに取り次げ、孫娘」

・・・。っていうか、なんでそんなに上から目線なの。

あなたの着ている軍服って、下っ端の軍服だよね。
軍人って、そんなに偉いんですか?

私がおバカさんなんですか?

わけのわからないイライラが、お腹の中で爆発炎上した。

怒りで覚醒した目で、下っ端君を見上げてみれば・・・、下っ端君は、とてもとても見目麗しいお顔。
部隊ではなく、舞台を抜け出てきた俳優みたいなお姿。

薄い水色の瞳にわたしが映る。
夕日を浴びた金髪が空気に溶け込む。

「もう一度言う。メルに会いたい。取り次げ」

さっきの妄想撤回。

「先ほども申しました通り出かけております。戻りましたら後日連絡致しますので、連絡先をお教えください」
そう言いながらメモとペンを下っ端君の前に差し出した。

綺麗な下っ端君は、しばらく何かを考えていたようだけど、

「わかった。出なおす」

そう言うと、夕焼け色の街の中に消えて行った。














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