ヒトツボシ ーヤンキー家政夫と美味しい食事ー
家族でご飯を食べることがなかったので、鍋を囲むという経験もろくにないんだ。
何度か鈴木家でご馳走になったくらい。
簡単そうではあったけど、鈴木のおばさんに任せっきりだったので、自分でお鍋を作ったことはない。
「具材を入れて点火のスイッチ押すだけだし、大丈夫だって。
豆腐は温まれば食べられるし、白菜が柔らかくなってきた頃には他の野菜も火が通ってる。それにさ、そのくらいならきっと親父さんだって出来るだろ」
「あ、そっか。お父さん……」
いざと言うときは、お父さんに任せればいいのか。
「でも、できるだけ自分でやりたいので、頑張ってみます」
崇さんは「頑張れ」と笑いながら、鍋用の深い取り皿とポン酢を差し出した。