ヒトツボシ ーヤンキー家政夫と美味しい食事ー

朝ご飯を食べ終わり、「崇くんによろしくな」と言うお父さんについて玄関を出た。


外の門扉のところで「行ってきます」と手を振るお父さんに、私も「行ってらっしゃい」と振り返す。


お父さんの背中が見えなくなると、私は手を下ろして「行ってらっしゃい、か」とつぶやいた。


こんな言葉、最近になるまでまともに言ったことがなかった。


いつも家に一人でいて、誰かを送り出すことなんてなかったからだ。


それなのに、今は自然と言えた。親子みたいなやり取りを自然と行える。


そんな自分に、心がムズムズする。


頬がにやけてしまう。


お父さんは父親だとわかっていても、今まではどこか他人のように感じていた。


それが今ではちゃんと家族だ。


それがこそばゆくあり、嬉しくもある。


そう、嬉しいんだ、私は。


もしかしたらずっと、家族がほしかったのかもしれない。

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