あんたの代わりは、いないから。



あたしの手首を掴んだのは
わたる……ではなく。



「すみません茉梨乃先輩、
鼻大丈夫ですか?」



「…お?」



「良かった、血出てなくて。」



そう言って、彼はホッとした顔をする。



「……あれ?なーんか聞き覚えのある声だなーと思ったら、昨日の…だよね?」



間違いない。この120%の笑顔は
保健室で会った後輩くんである。



だけど、今日は黒縁のメガネをしていない。
いつもはコンタクトなんだろうか。



「なに、知り合いなの」



そんな言葉と同時に、わたるは
後輩くんに掴まれていたあたしの手を
さりげなく引き離した。



…わたるは時に、謎である。



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