距離1000㎞

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後輩の彼女と名乗る人からメールが来たのはついこないだのことだった。

後輩の彼女のことは後輩から聞いて知っている。後輩は彼女のことを溺愛していて、待ち受け画面にしているほどだ。
指にはお揃いの指輪も光らせている。

俺は後輩の彼女とは面識がない。しゃべったこともない。だが、俺があげた動画に対し、その彼女がメールを送ってきたのだ。

動画は、今年のゴールデンウィークに後輩を含め仲のいい4人で旅行に出かけた時のものだった。
俺たちは、おなじ職場の仲間で俺、一年下の男の後輩が二人、そして二年下の女の後輩が一人だ。

女の子はかわいい。俺も、一年下の後輩二人も、どちらもその女性の後輩を可愛がっていた。

あいつが恋に悩めば、皆で相談に乗った。
あいつが失恋すれば、連日飲み会を開いて悲しさがまぎれるように一緒にいてやった。

あいつは甘え上手だ。最近では飲み会会場によくなる俺の家に入りびたり、俺のPCをいじって、動画編集に凝っていた。

編集していた動画は、くだんのゴールデンウィークに行った旅行の時のものだ。


俺はあいつがほんの少し好きだった。
家に入りびたりにさせてたのだって、下心がないわけじゃない。
でも、大事にしたいから別に手を出すわけでもないし、何より、もうずいぶんと前に告白して振られていた。それでもよかった。俺の彼女になってくれなくても、かわいい妹分としてでも、付き合いがつづけばいい。

そんな、あいつは無邪気で、悪気はないのだが、愛想がいい。
そこを後輩の彼女は目を付けたのだろう。

だが、後輩が最近彼女との関係がうまくいかないと愚痴っているらしいというのは耳にしていた。
ここは、逆上させるようなことをしてはいけない。

後輩の彼女からの要求はこうだった。
ゴールデンウィーク旅行の動画のうち、三部作の真ん中の動画にあるあるシーンを削ってくれ、と。
見ているととても悲しい気分になるそうだ。

旅先で見つけたスワンボート。
無邪気でこどもっぽいあいつは乗りたがった。

俺はあいつに振られているし、どうやら、後輩のうちの彼女のいない一人もあいつとなんかあったようだった。
もう一人の後輩は彼女持ち出し、問題ないだろ？

二人きりのスワンボート。
その中であいつは後輩に尋ねた。

「これからテッシーに質問で～す」

旅の思い出のテンションの高い楽しい動画。

「好きな番組は？」
「好きな食べ物は？」

そして、後輩の彼女が消してくれたといったシーン。
「好きな石原は？」

あいつの名前は石原真奈美。

後輩は「えーと、好きな、好きな石原は…石原さとみ！」
と答えるものの、あいつは言った。

「えー！！そっち？もう一度聞きますよ、好きな石原はー？」

後輩は「石原真奈美」と答えていた。

俺は、後輩の彼女からのメールに返信した。

あの動画は仲間内で楽しむためにあげたもので、悪気はありませんでした。そして、あなたを悲しませるためのものでもなかったのです。
しかしながら不快な思いをさせてしまったようで、大変に申し訳ありませんでした。
全ての動画を消去します。
申し訳ありません。