距離1000㎞
彼女の変遷
彼女が、イライラしはじめたのは今年度の頭頃だったと思う。
俺には仲のいい女の後輩がいた。
郷里が一緒で愛嬌のある子だったから、意気投合するのにそう時間はかからなかった。
彼女はそれが気に入らなかったらしい。
確かに俺も悪い。
彼女は不安になっていることを訴えていたのに、なかなかキャッチできなかった。
はじめは、かわいいヤキモチぐらいにおもっていたし、頼ってくれる後輩を無下にするなんてできるわけもなかった。
やがて、彼女は後輩のブログをよみ、SNSの写真を見て、俺に気をつけろと何度も言うようになった。
好きなのはまちがいなく彼女だ。大事なのも彼女だった。
なんで、たんなる後輩にそんなに不安になるのだろう、と俺は意味がわからなかった。
どんどんヒステリックになる彼女に、やがては着信拒否をされ、電話口で切れられ、俺は後輩に2度と遊びに行かないことを約束させられてしまった。
一度はそれで落ち着いたんだ。
俺は彼女を失いたくなかったし、安心させてあげたかった。
だが、落ち着いたと思った頃、また彼女が言ってきた。
ゴールデンウィークの動画、あれ何なの?と。
彼女の声がまた険しい響きを帯びていたのが嫌だった。
俺は、すでに彼女のために、職場での楽しい日々を手放したんだ。後輩の女の子とはもちろんだけれど、一緒に遊びに行っていたメンバーともどことなくぎこちない部分が残っている。
ゴールデンウィークの動画と言われてすぐには何の事だか思い出せなかったが、彼女がスカイプで送ってきたURLをクリックし、兎にも角にも、気分は底まで落ち込んだ。ゴールデンウィークの旅行は鬼門だ。あの時の写真で、俺は後輩との関係を切ることに同意したんだった。
ぼんやりと動画を眺めた。眺めているうちに、底まで落ちたと思っていた気分はもはや浮上する余地などないほどまでに底を這いずり回ることになった。
そういえば、後輩の女の子とスワンボートに乗って、その後輩が好きだといわされたんだっけ…。
この動画を見て、いろいろなものが忌まわしくなった。確かに、これを俺の彼女が見逃すはずはなかったし、せっかく落ち着いてきた関係をまた悪くすることは容易に想像できた。
動画を編集した後輩にも、動画をアップロードした先輩にも、そうして、電話口で起こっている彼女にも俺はとにかくうんざりした。
なんて答えればいいんだ。どういったって、彼女の機嫌はなおるはずなかった。
だんまりを決め込む俺に彼女は言った。
「どうする、とかないんだ。」
それはとても冷たく聞こえた。彼女の熱が冷めていくことがわかった。急速に遠ざかっていく。手を伸ばして捕まえたいけど、どうしたらとどめられるのかわからなかった。彼女が俺から離れていくのが怖くて、もはや身動きが取れない。
追い詰められて出てきた言葉は、彼女を逆上させ、俺たちの関係に終止符を打つのに十分だったかもしれない。
「もう、後輩にかかわるなといったのは君じゃないか。俺に何ができるんだよ。」
その言葉に、彼女は怒りすらしなかった。気が高ぶった時には、電話口でヒステリックに叫ぶこともあった彼女が、とても静かに言った。
「わかった。自分でなんとかするから。もう、あなたに二度と連絡しない。」
彼女の声の響き、口調。
それは最後通牒だと俺には痛いほどわかった。
俺には仲のいい女の後輩がいた。
郷里が一緒で愛嬌のある子だったから、意気投合するのにそう時間はかからなかった。
彼女はそれが気に入らなかったらしい。
確かに俺も悪い。
彼女は不安になっていることを訴えていたのに、なかなかキャッチできなかった。
はじめは、かわいいヤキモチぐらいにおもっていたし、頼ってくれる後輩を無下にするなんてできるわけもなかった。
やがて、彼女は後輩のブログをよみ、SNSの写真を見て、俺に気をつけろと何度も言うようになった。
好きなのはまちがいなく彼女だ。大事なのも彼女だった。
なんで、たんなる後輩にそんなに不安になるのだろう、と俺は意味がわからなかった。
どんどんヒステリックになる彼女に、やがては着信拒否をされ、電話口で切れられ、俺は後輩に2度と遊びに行かないことを約束させられてしまった。
一度はそれで落ち着いたんだ。
俺は彼女を失いたくなかったし、安心させてあげたかった。
だが、落ち着いたと思った頃、また彼女が言ってきた。
ゴールデンウィークの動画、あれ何なの?と。
彼女の声がまた険しい響きを帯びていたのが嫌だった。
俺は、すでに彼女のために、職場での楽しい日々を手放したんだ。後輩の女の子とはもちろんだけれど、一緒に遊びに行っていたメンバーともどことなくぎこちない部分が残っている。
ゴールデンウィークの動画と言われてすぐには何の事だか思い出せなかったが、彼女がスカイプで送ってきたURLをクリックし、兎にも角にも、気分は底まで落ち込んだ。ゴールデンウィークの旅行は鬼門だ。あの時の写真で、俺は後輩との関係を切ることに同意したんだった。
ぼんやりと動画を眺めた。眺めているうちに、底まで落ちたと思っていた気分はもはや浮上する余地などないほどまでに底を這いずり回ることになった。
そういえば、後輩の女の子とスワンボートに乗って、その後輩が好きだといわされたんだっけ…。
この動画を見て、いろいろなものが忌まわしくなった。確かに、これを俺の彼女が見逃すはずはなかったし、せっかく落ち着いてきた関係をまた悪くすることは容易に想像できた。
動画を編集した後輩にも、動画をアップロードした先輩にも、そうして、電話口で起こっている彼女にも俺はとにかくうんざりした。
なんて答えればいいんだ。どういったって、彼女の機嫌はなおるはずなかった。
だんまりを決め込む俺に彼女は言った。
「どうする、とかないんだ。」
それはとても冷たく聞こえた。彼女の熱が冷めていくことがわかった。急速に遠ざかっていく。手を伸ばして捕まえたいけど、どうしたらとどめられるのかわからなかった。彼女が俺から離れていくのが怖くて、もはや身動きが取れない。
追い詰められて出てきた言葉は、彼女を逆上させ、俺たちの関係に終止符を打つのに十分だったかもしれない。
「もう、後輩にかかわるなといったのは君じゃないか。俺に何ができるんだよ。」
その言葉に、彼女は怒りすらしなかった。気が高ぶった時には、電話口でヒステリックに叫ぶこともあった彼女が、とても静かに言った。
「わかった。自分でなんとかするから。もう、あなたに二度と連絡しない。」
彼女の声の響き、口調。
それは最後通牒だと俺には痛いほどわかった。