君が思い出になる前に…
「だから?」
絵美が聞いた。
「昨日、言ったじゃないか…。離れたくない、一緒にいて、って言ったのは絵美の方だろ?」
「うん…。言った…」
うつむいて答える絵美。
「だから、一緒にいてくれよ。ずっとおれのそばにいてくれよ」
懇願ってこういう事なんだろうな…。必死になっているおれ。
絵美はうつむいたまま、黙っている。
「行かないで欲しい…」
もう一度言った。
絵美が泣いているのがわかった。
そして続く無言の時間。

「祐ちゃん、ずるい…」
絵美が口を開いた。「なにが?」
絵美に尋ねた。
「祐ちゃんは、違う世界から来たんでしょ?」
「うん…」
「祐ちゃんが来た時、っていうか、今の祐ちゃんに変わったの、なんとなくわかってた気がするの…」
「いつ?」
「お昼休みにパンを渡した時…」
「一番最初じゃない…」
「そう…。前の祐ちゃんなら、おせっかいやくなって、いつも無視してたもん…。それはそれでいいの…。あたしの一方的な想いだったから…。しょうがないっていつも思ってたの。でもあの時祐ちゃん、ありがとうって言ってくれたでしょ?その時の目、凄く優しそうに見えたの。前の祐ちゃんなら、そんな風に言ってくれた事、一度も無かった。だから、変わったなぁってその時思った。今までの祐ちゃんじゃないんじゃないかって思うくらい…。まさか未来から来たなんて、その時は思わなかったけど、それまでとは全然違う、優しく接してくれる祐ちゃんがたった何日間のうちに、どんどん好きになっていったの…。でも…」
そこで話しが途切れた。
「でも何?」
「でも、昨日違う世界から来たって話しを聞いた時、この祐ちゃんはいつかいなくなってしまう人なんだって思ったの…。だから、だから優しい、あたしの好きな祐ちゃんでいるうちに、あたしの方から離れて行きたかったの…。ずるいって祐ちゃん、思うかもしれないけど。いつまた違う祐ちゃんになっちゃうのか、不安で過ごすより、ずっとその方がいいって思ったから…。だから夕べ、家の人と相談して決めたの…」
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