君が思い出になる前に…
「そうだったの…」「祐ちゃん言ってたじゃない。明日違う元宮祐作になっていてもあたしにはわからないって…。でもあたしには、ちゃんとわかると思う。あたし、今の…、目の前にいる祐ちゃんが大好きだから、絶対わかる自信ある!」逆に言葉を無くしたのはおれの方だ。

「どこにも行かないって言えないでしょ?元いた世界に戻らないなんて、約束できないでしょ?そんな事無理でしょ?」「それは…」
絶対に言い切れる事じゃない…。
ここに来た本当の理由すらまだわかっちゃいないのに…。
それは寿命がいくつまでなのかって答えるのと一緒だよ。

「うん…。約束できない…。だけど、この世界が好きだ。絵美が好きなんだ。だから一緒にいて欲しいんだ」
「祐ちゃん…!」
絵美が駆け寄ってきて、おれに抱きついた。
「ずっとそばにいて…。お願いだから」そう言うとおれの胸に顔をうずめた絵美が、小さくうなずいた。
「祐ちゃんも…、どこにも行かないって言って…」
泣きじゃくりながら絵美が言った。
「うん、行かない…」
約束なんてできないのに…。お互いわかっている事なのに。でも、そう言わずにはいられなかった。過去の記憶も未来の軌跡もすべて無くしたってかまわないって、思った。
今、やっと自分の中で決心がついた。15歳のこの世界で、再び生きていく事を。そして、この時間に生きていられる事に感謝したいって思った。

「本当にいいの?」絵美が言った。
「なにが?」
「あたしなんかで…」
「当たり前じゃないか。絵美でなきゃダメなの!」
「ありがとう…」
絵美が泣きじゃくりながら、ポツリと言った。
抱きしめていた腕に更に力がこもった。
「今夜、パパが帰ってきたら、留学の事、もう一回話してみる…」
「うん」
「まだまだ祐ちゃんと一緒にいたい…」「ずっとじゃないの?」
「うん、ずっと…」こんなに人を愛おしく思った事など、一度も無かったかもしれない。
このまま死んでもいいと、この瞬間思った。


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