君が思い出になる前に…
「あのさぁ、おれたちなんかさぁ、夕方まであそこにいて、それからカラオケに行ったんだぜ!めっちゃ楽しかったぁ」ふ~ん、良かったね。
紀子の事が少し気にはなったけど、無関心なふりをした。
「良かったなぁ」
「なんだよ…。それだけかよ」
当たり前だよ。他人のデートの感想聞いても、しょうがないだろ…。
さっさと教室に行こうっと。
「おい…、おい、なんだよ…」
健太が気抜けしたように言った。

紀子はすでに席についていた。
「おはよう」
声をかけてきたのは紀子の方だった。
「お、おはよう」
少しだけ後ろめたい気持ちになった。
どうしてか、わからないけど…。
「昨日は楽しかった?」
無表情に近い顔で紀子が言った。
「う、うん…」
なんでそんな事聞くんだよ。
そらぞらしいなぁ…。
それだけ言うと、紀子は一時間目の授業の準備を始めた。

帰りたくないって、言ったあの日以来、紀子の態度がなぜか変わってきたように思う。
冷たいと言うか、よそよそしいと言うか。
なんでだ?
「どうしたの?なんかいつもと違う気がするんだけど…」
思わず聞いてみた。「別に…。そんな事ないよ…」
こっちも向かずに紀子が答えた。
あきらかに違う。
昨日もそうだった。遊園地で会った時も、目を合わせようともしなかったし。
気になる…。
唯一、同じ立場の人間なのに…。


昼休みになった。
すると紀子が急に話しかけてきた。
「今日の夕方、会えないかな…」
「え?う、うん。いいけど」
突然の言葉に少し戸惑った。
「話したい事があるの。また堤防で…、いい?」
紀子の表情は暗い。「う、うん…。わかった」
そう言ってうなずいた。

「加賀ちゃん!昨日は楽しかったねぇ。また行こうね!」
万年ハイテンションの健太が割り込んできた。
< 103 / 200 >

この作品をシェア

pagetop