君が思い出になる前に…
奴の話しは聞きたくなかったから、その場から立ち去った。「おい、祐作。どこ行くの?」
どこでもいいだろ。「トイレ!」
本当は違うけど…。

「祐ちゃ…、元宮君!」
廊下に出ると絵美がいた。
学校にいる時と、二人でいる時で呼び方を変えてるの?
なるほど…。
「絵美…」
昨日の絵美の温もりを今も覚えている。湯上がりの髪の匂いも。
その覚えのある髪の匂いがほのかにするぐらい、近くに駆け寄ってきた。
「昨日は…、ありがとう」
絵美が上目使いに小声で言った。
「あ、いや、あの…」
なんて返事したらいいんだろ…。
絵美の表情が曇ってる…。
なんだろ?
「あれから、パパとママに相談したの…」
うつむいて絵美が言った。
何を言われたの?
何て言われたんだよ…。
「うん、そしたら?」
「そしたらね…」
そこで言葉を止めた絵美。
ゴクリとつばを飲み込んだ。
ほんの数秒なのに、やけに長く感じた。「そしたらね…、高校を卒業してからでも、遅くないわねって、言ってくれたの!」
語尾になったら突然嬉しそうに言い出した。まるで昨日のジェットコースターのように。
曇ってた表情から一転、満面の笑みに変わった。
「ほんとに!?マジで!?やったぁー!!」
おれと絵美は手を取り合って、馬鹿みたいにはしゃぎまわってしまった。
「ねぇねぇ今、引っかかった?」
いたずらっぽく絵美が笑う。
「うん!一瞬焦ったぁ!何て言われたのか、凄い不安だったからさぁ」
良かった!絵美がそばにいてくれる。こんな嬉しい事、今までなかったかも。
「だけど、ひどいよ!騙すなんてぇ」
「騙してないよぉ、ちょっと言い方変えただけですよ~」
おどけて見せる絵美。こんな彼女、初めて見たかも。きっと絵美も凄く嬉しいんだろうな。

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