君が思い出になる前に…
「なんで?」
「この世界のあなたは、間違いなく杉下さんのものだもん。あたしがいくら待っても、あなたは気づいてくれなかったと思う。あなたが来る前、6月10日以前のあなたは、杉下さんと付き合ってはいたみたいだけど、彼女いつも寂しそうな顔をしてた。あなたはまるで相手にしていないって感じ。でも優しくなかった訳じゃないのよね…。交換日記とかしてたみたいだし…。なんだろうね、照れくさかったのかな?でも、あなたが来てからは、彼女の顔は凄く明るくなっていった。その時思ったの。あなたの未来にあたしは存在しないんだって…。悲しかったけど、それが現実みたい。あたしの未来はどこにあるんだろうって」
「そんな…、そんな事言われても…」
「あぁ、だから気にしないで。さっきも言ったように、あなたはあたしの世界のあなたじゃないんだから…。あたしね、考えてみたの。未来っていくらでも存在するんじゃないのかなって。それはパラレルワールドなんて全然関係ないのよ。未来の選択って自分でするものでしょ。流れに任せようなんて思うから、複雑な未来が絡んでくるんじゃないかしら。あたしとあなたの未来が違ってて当然なのよね。この世界で、もしずっと暮らすんなら、少しずつ未来を変えていく事だってできるはずだし。もしも、元の世界に戻れたなら、あたしはあなたと共に生きているかもしれない。それとも、あなたじゃない違う人かもしれないしね」
紀子は明るく微笑んで見せた。
でもその瞳は潤んでいる。夕日がそれを照らしていた。
「だったら、なんで君がこの世界に飛ばされなきゃいけなかったんだ?」
「それはきっとあたしの未来が間違ってたからなんじゃない?あたしの結婚する相手はあなたじゃなかったって事かな。あなたはあたしじゃない別の人と結婚するはずだったんじゃないかしら…」
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