君が思い出になる前に…
堤防を岸の方に戻り、砂浜を紀子と歩いた。
手を繋ぎながら…。海に沈みかけた太陽が真っ赤に輝いていた。空も海も砂浜も、辺りの景色までもがすっぽり赤く染まっていた。
「明日からは、いつも通りの友達ね。高校も一緒かもしれないし、大学も。だけどあたしはあなたじゃない違う人を探すんだ!」
カラ元気なのは、わかっていた。
声がうわずって虚しく聞こえた。
「手ぇ繋いでて、そんな冷たい事言うなよ」
おれも彼女のカラ元気に付き合ってあげた。
潮風のせいだろうか。紀子の手は冷たかった。
「あたしね、あなたの事、大好き!今しか言わないわよ。あなたの事、とっても大好きよ!」
上を向いて空に叫んでいる。涙が頬を伝っていた。けど、紀子は拭こうともせず、その涙とは裏腹に笑顔で言った。
「ずっと友達でいようね!大好きな元宮君!」
彼女の笑顔が悲しかった。
こらえきれずにおれも涙が溢れてきた。唇を震わせ我慢しようとしたが、次から次へと涙が流れてくる。
もうすぐ灯台だ。わずか数百メートルの、最初で最後の恋人同士。
ここにいた不甲斐ない祐作を恨みたくなってきた。

「ありがとう…」
紀子が言った。
「あたしの為に泣いてくれて…」
涙を隠すつもりはなかった。
「ここでいいわ…。本当にありがとう。これで吹っ切れた…」
微笑んでみせる紀子が切なく見えた。
次の瞬間、おれは紀子の腕を掴みグイッと引き寄せ、抱きしめた。
強く強く抱きしめていた。

「やめて…」
か細い声で紀子が言った。
「せっかく忘れようとしてるのに…。これ以上、優しくしないで…、お願いだから」
そして紀子はおれの胸を両手で押し、おれから離れた。
「ご、ごめん…」
自分が何をしてるのか、やっと認識できた。
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