君が思い出になる前に…
「う、うん…。あ、パン、ありがとう」
「え?う、うん…。じゃ、またあとでね」
一瞬、また首をかしげたように見えた。お礼を言ったのが、不思議だったのか?
そんな事ないだろ…。人に親切にされたら、お礼を言うのは当たり前。たとえ時代が変わっても、それは変わらないよな。
絵美は友達と、はしゃぎながら歩いていった。

教室に戻るとあらかた弁当を食べ終えた連中ばかり。
席につき窓の外を眺めながら揚げパンにかじりついた。
懐かしい。まわりの砂糖も中のあんこも。しっとりする感覚がたまらなく好きだった。
「元宮ぁ、なんだよ今日は。やけにおとなしいじゃん…」
えっとどちらさんでしたっけ?
え~と、…そうだ!谷口智也だな!
こいつはたしか車のセールスマンになったんだ。
けど、いつもパチンコ屋に入り浸っていた。たまにおれのスーパーにきて、店員の誰かに車のセールスしてたっけ。
おっさん顔のあいつは、中学の時もおっさん顔だったんだなぁ…。
「何にやけてんだよ…」
「あっ、いや思い出し笑い…」
思い出し笑いか…。未来の事の思い出し笑いってのも初めてだなぁ。普通なら有り得ない事だし。
「外にかわいい子でもいるんか?」
おいおい、婆さんと同じ事言うなよ。ムカつくなぁ。
「別にぃ~、ほっといてくれる?」
谷口の顔を見ずに外を眺めながら言い放ってやった。

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