君が思い出になる前に…
絵美の家の前に行くと、グレーのセダンが二台並んでいた。
インターフォンを鳴らした。
『はい、どなたですか?』
お母さんの声だ。
「元宮です」
『元宮さん?ちょっと待ってね』
インターフォンが切れた。
まもなくして玄関がスッと開いた。
「おばさん、絵美がいなくなったって、本当ですか?」
「そうなの…。夕べ、元宮さんのお母さんに送って頂いて帰ってきてから、部屋に入ったあと顔を見てないのよ。今朝起きてこないから、起こしに行ったの。そしたら部屋にはもういなかったのよ。学校に行ったのかと思ったんだけど、カバンも制服もそのまんまだし。大げさかも知れないけど、心配になって警察の方に相談してたんです。どこか行きそうなところとか知りません?」
心配顔の絵美のお母さん。おれには、まったく心当たりがない。
「わかりません。だけど、ちょっと街の方とか探してきます!」
「あ!元宮さん!」呼びかける絵美のお母さんに頭をさげ、再び街へ走り出した。
これ、警察の車だったのか。
どこ行ったんだ?絵美…。
街のアーケードを一軒一軒覗いてみるが、絵美の姿らしきものは見当たらない。住宅街も細い路地も、ぐるぐる回ってみたが見つからない。海辺も探した。
砂浜の端から端まで。灯台の先までも…。
いない。どこに行ってしまったの?
もう二時間は走り回っているが、一向に見つからない。
「どこに行ったんだ、絵美…」
突然、雨が降り出してきた。
大粒の雨。
スコールのような梅雨独特の雨。
あっという間に、全身びしょ濡れになってしまった。
更に数時間、いつの間にか泥だらけになり、走り続けた。
街の駅の東西それぞれ3つ先まで探してがみつからない。
「いない…。どこにもいない。絵美…、どこ行ったんだよ」
もう何時間走ってるんだろう。
体が重い。
動けない…。
頭が痛い。
風邪引いたんだろうか…。
熱っぽい気がする。意識が…、意識が薄れてきた。
地面に膝をついたところまでは覚えているが、次の瞬間、気を失ってしまった。

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