君が思い出になる前に…
「そうなんだ…。付き合ってた人とかはいなかったの?」
「あ…、うん、いたよ…」
そんな事、ずいぶんと忘れていた。
「どんな人?」
絵美がおれの顔を見て言った。
「バスケしてた時のマネージャーでね…、小柄で少しギャルっぽかったかな。凄く活発な子だった。23歳から4年付き合ってた…」
「そうなの…。じゃあ、別れたんだ…」「うん…」
「何で別れたの?そのマネージャーさんと」
突っ込んで聞いてくるなぁ…。別にいいけど。話せない事でもないし。
「バスケットやってるおれが好きだったんだって…。人が好きだったんじゃなくて、バスケットが好きだったんじゃないかな?コートに立っていないおれには興味なくなったんだよ。おれと別れてから、すぐ違うチームメートと付き合いだしたんだ…」
「それ、ひどい…。ひどいよ。本当なら、怪我してやめた祐ちゃんを慰めてあげたり、元気づけてあげたりするのが彼女としての役目なんじゃない?」
「しょうがないよ…。おれ、バスケットできなくなって自暴自棄になっていたから…。彼女に情けないとか言われて、おれもひどい事、彼女に言い返してたし…。今思えば、彼女が情けないって言ったのは、おれに発破をかける為だったんだと思うよ…」
「そうなんだ…。優しいね、祐ちゃん」「え?何で?」
「別れた彼女の事、悪く言わないんだもの…」
「別れた後って、やっぱりいい思い出にしたいじゃない…。ひどい女なんて、思った事ないよ」
「あたしならずっとそばにいてあげる!絶対別れたりしない…」
前を向いたまま、絵美がきっぱりと言った。
それは将来の別れた彼女に嫉妬したのか、おれの思い出に嫉妬したのか、そのどっちかなんだろう。絶対別れない…か。そんな事、誰にも分からないじゃない。そりゃあ、そんな風にはなりたくないけど…。
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