君が思い出になる前に…
未来の事なんて誰にも解らないんだよ。
でも、未来を話している事自体が、不自然なんだよな。
今さらだけど…。


雨が強くなってきた。
「凄いね、雨…」
絵美が言った。
おれの右肩も、絵美の左肩もびしょ濡れになっていた。
「アーケードに入ろうか」
「うん!」
少し小走りでアーケードに向かった。

ふと前を見ると、紀子がひとりで雨の中、傘をさして立っていた。
地面を見て、何かを探してるみたいだ。「あ、加賀さんだ…。どうしたんだろう?」
絵美も気づいた。
「加賀さ~ん、どうかしたのぉ?」
絵美は紀子に声を掛けた。
紀子が忘れようとしている思いを、絵美は知らない…。
こんなふたりの姿を見たら、紀子はどう思うんだろう。
「あ、杉下さん…。鍵を落としちゃったみたいなの…」
こんな雨の中で?
「お家の鍵?」
「うん、無いと中に入れないから…」
「ねぇ、一緒に探してあげようよ?」
絵美がおれを見て言った。
「う、うん」
紀子がおれをチラッとだけ見た。
それから絵美を見て、
「ごめんね、ありがとう」
そう言った。
「この辺りなんだけど、チャリンって音したの…」
紀子は困った表情をしている。
「あたしこっち側見るね、祐ちゃんはそっちね」
おれたちは、ひとつの傘だから、別々には探せない、と言う訳ですね。
そんな絵美の言葉に、紀子は反応する事はなかった。
「ないねぇ~」
「ないねぇ~」
「ないねぇ~」
絵美と紀子が、代わりばんこに言っている。
笑っちゃいけないんだけど、なんかおかしくって、思わず笑ってしまいそうになった。
わずか1メートルほどの幅しかない歩道。
紀子が落としたと言ったポイントから、前後10メートルくらいを探したが見つからない。
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