君が思い出になる前に…
「やっぱりないねぇ…」
地面を眺めながら絵美が言った。
「ごめんね、こんな雨の中…」
申し訳なさそうに、紀子が言った。
「ううん、大丈夫よ。全然平気!」
絵美が微笑んでみせた。
安心する紀子。
またしばらく3人で探し続けた。

「あ!あった!」
紀子の指差した先は車道だった。
歩道から2メートルぐらいのところにキラリと光る鍵を見つけた。
すぐさま駆け出す紀子。
と、次の瞬間、後方から車が来ているのに、おれは気づいた。
「あぶない!!」
大声で叫び、おれは紀子の後を追って車道に飛び出した。
それに気づいて振り向いた紀子。
ガシッと紀子をつかまえた。
でもそれ以上の動ける時間はなかった。「キャー!!!!」
絵美の悲鳴が聞こえた。
『ドン!』と、鈍い音。
その瞬間、おれと紀子は何メートルか、空中に弾き飛ばされた感じがした。

「祐ちゃん!祐ちゃん!しっかりして!」
絵美の悲痛な声が聞こえる。
目を開けると傘もささないで、ずぶ濡れの絵美が必死でおれに叫んでいる。
「絵美…。か、加賀は?」
「わかんない、わかんない!祐ちゃん!しっかりして!」
わかんない?大丈夫なのか?紀子は…。
意識が…、薄れてきた。
絵美の声がだんだん遠くに聞こえる。
今、絵美の腕の中にいるんだ。おれ…。泣いてるの?
絵美…。
ごめんよ。
また泣かせちゃったね…。
「ゆうちゃーーーーん!!!!」


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