君が思い出になる前に…
廊下を歩いていると、すれ違う看護士や患者たちが、おれに挨拶をする。

それにひとりひとり、笑顔で答える。

「先生、もう大丈夫なんですか?大変でしたねぇ」

加藤さんの娘さん。とは、言っても50歳を超えているご婦人だ。

加藤さんは、脳梗塞で入院されてる82歳のおばあさん。そう、おれの患者さん。
「えぇ、もう大丈夫です。ご心配かけました」

と、愛想笑いをした。

「お母さんのご様子いかがです?」

すでに医師になっていた。

「はい、お陰様で最近は顔色も良くなってますし、食欲もあるんですよ」

加藤さんの娘さんが嬉しそうに言った。
「良かったですねぇ、お大事になさってください」

そう言うとご婦人が頭を下げた。

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