君が思い出になる前に…
512号室、名札に『加賀紀子』と書いてある。


「こんにちは…」

部屋の仕切りのカーテンを開け、その病室に入っていった。
窓際のテーブルに置かれた花瓶に、紫陽花の花が飾られている。

「元宮君…?」

ベッドを起こし、本を読んでいた紀子がおれに気づいて顔をあげた。


「どう?具合は」

彼女のベッドの脇にある椅子に座って、様子をうかがった。
「本当に元宮君だったのね…」

読んでいた本をパタンと閉じ、まじまじとおれの顔を見る紀子。


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