君が思い出になる前に…
「本当よ…わたしは一年前の昨日、6月10日…。2006年から来たの。あなたと同じよ。朝、目が覚めたら1991年に戻ってた…」
「本当に?おれだけじゃなかったんだ…」
ため息が出た。
「じゃ君は、もう一年もここにいるって事?」
「そう、戻れない…、一年たっても」
紀子はそう言うと、うつむいてしまった。
「マジかよ!じゃおれもずっと戻れないって事?」
「それはあたしにもわからない。あなたは明日戻れるかもしれないし、あたしはずっとこのままかもしれない…」
「それって、おれにも言える事でしょ」紀子はその言葉に、躊躇しながらも無言でうなずいた。
「それよりも、もっと…」
紀子が何か言い掛けた時だった。
「元宮君!」
絵美が教室の開いたままのドアから声を掛けてきた。
「絵美…」
紀子も振り向いた。
「じゃ、それ分かったら教えてね…」
ん?なんの事だ?紀子がおれにウインクした。
そうか、絵美に気を使ってくれたんだ。「う、うん。わかった。そうする」
とっさに機転を利かせてくれた紀子に、あとで礼を言わなくては…。
それにしても、何を話そうとしたんだろう…。
気になる。
「じゃ、よろしくね。お先に、バイバイ」
と言って席をたった紀子。
絵美の前で立ち止まり、
「誤解しないでね、あたしたち、当番だったの」
紀子が絵美に説明している。
ちょっとおかしかったけど、笑うとこではない。感謝しなければ…。

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