君が思い出になる前に…
「うん、平気。ちゃんと言ってきたから」
おれの顔をみて優しく微笑んだ。
「そっか…」
なぜか紀子といるとホッとする自分を感じた。
同じ『時の漂流者』だから?
いや、もっと違う意味があるんじゃないかな?
なんとなくだけど、そう思った。

「ここよ…、あたしんち」
紀子の家に着いた。と、それを見てびっくりしてしまった。「こ、ここ?」
たしか、おれの記憶では、普通の二階建ての一軒家だったはず。
目の前には立派な門構え、三階建て鉄筋コンクリートの真っ白い大豪邸。車庫にはベンツが二台も停めてある。手入れの行き届いた植木。どこから運んできたのか、でっかい岩まで。
「あたしのパラレルワールドよ…」
紀子が言った。
「驚いたなぁ…」
ただその言葉しか出なかった。
「元の世界でも、父は建設会社に勤めてたの。あたしがこの世界にきてからなんだけど、部長から専務になったのね。それから半年位で、社長が解任させられて、代わりに父が社長になっちゃったの…」
そっかぁ、有り得ない話しではない。
きっとお父さんが凄い努力をしてチャンスを手にしたんだと思う。
時代はバブル崩壊直後。
真っ先にあおりを受けたのは、建設業界だった。
今まで贅沢三昧してきた無能な社長、会長たちは次々に退陣させられていった。でも、時代は不況とは裏腹に、箱物をどんどん建て、道路網も盛んに広がっていった時期だ。
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