君が思い出になる前に…
「早くご飯食べなさい」
と、母さん。
「あっ、うん」
テーブルについた。
「今日のテストどうだった?」
と、姉。
「そうそう、テスト…、どうだったのよ」
と、母。
母に吊られて姉が後から言うならわかるが…。逆のような気がする。
「う、うん。なんとか…」
ご飯を食べながらぽつりと言った。
なにか会話しなければ…。
「あの…おふ、コホン。か、母さんは毎日忙しいの?」
またお袋って言いそうになった。
母さんは、隣の町で小さいながらも洋服屋を営んでいた。今風に言うならブティックか…。
まぁ決してそんな風に呼べる店ではないけど。
それに洋裁教室の先生でもあった。
そのお陰で高校にもちゃんと行けた。
父さんの記憶はない。
おれが一歳になる前に事故で死んだらしいから。
おれの場合、この世界にも父さんはいない。
居間にある仏壇も前のままだし…。
「うん…ここんとこ、毎日忙しいね…。しょうがないよね、病院立ち上げたばかりだし…。今ね、救急指定受ける為に、いろいろ大変なのよぉ」
母はご飯を食べ終えてお茶を飲んでいる。
今なんて言った?
「病院?立ち上げた?どういう事?」
箸を止めた。
「どういうって?」
キョトンとした顔の母。
「ほらね、母さん。一度この子、診てあげたら?」
と、姉さんが母さんの顔を見て言った。
「診る?な、なに?」
これもパラレルワールド!?
おれのパラレルワールドは、この美人な姉さんの存在だけかと思ってた。
その存在だけでも、かなりデカいのに…。
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