君が思い出になる前に…
「あんたもったいないじゃない!せっかく東大に行けるって言ってんのに…。行けるんなら国立に行ってよ。お金掛かんないんだから…」
確かに…。
国立なら私立の1/10以下だわなぁ、学費…。
もっとかからないかも…
って、そういう問題じゃないって…。
おれには到底未知の世界の話しです…。
「だよねぇ~やっぱり…」
と、姉さん。
まったくついて行けてないんで、部屋に戻ります。
「ごちそうさまでした」
「あら、もう食べないの?」
と、母さん。
「昨日もそうだけど、食欲ないみたいね。本当に大丈夫?」「うん…」
少しだけ、愛想笑いをして見せた。

部屋に入ってすぐベッドに倒れこんだ。倒れこんだというより、腰が抜けて立っていられない。
今日も驚く事ばかりだった…。
中間テストの出来。紀子のカミングアウトと紀子に起きたパラレルワールド。
この家に起きてるパラレルワールドは、もっと凄い。
母さんは洋服屋じゃなく医者で、最近病院を建てたばかりだとか…。
それとあの姉さんは医学部を目指している。しかも東大理三って…。
とんでもない進路だ…。
もう何が起こっても驚かないんじゃないかって思ってたけど、今は完全に腰が抜けてしまっている。どうなってるんだろうか。この世界…。
それに紀子とおれの過去と未来は別のもの…。
それが一番の不可思議な話しだ。
おれがAからBの世界へきたとすると、紀子はCからBの世界にきたって事になる…。
ここはとんでもない世界だ。
まるっきり想像を絶する世界。
常識を遙かに逸している。

でも、おれじゃない誰かには、あり得る話しなんだよな…。たとえば、東大とか慶應とかを目指す人は間違いなくいる訳なんだから。
そういう人たちの間では、こんな話しは普通の会話として成り立っているんだろうな。
さっきの母さんと姉さんの会話も普通に当たり前の事なんだろうよ…、きっと。
おれの頭の中は、絡まった釣り糸をほぐすように修復するのには、かなり時間がかかりそう…。
複雑に思いが迷走する。

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