君が思い出になる前に…
部屋を出て、居間に行くと、姉さんは朝ご飯を食べていた。
「母さん、もう出かけたわよ、あんたも早く食べなさい」
と、いう割には意外と優雅に食べている。
お嬢様なんですねぇ…。
とりあえず顔を洗いに…。
洗面所の鏡には、相変わらず15歳の少年が映っている。ため息をひとつして、顔を洗った。そして再び鏡を見る。やっぱり変わらず少年の顔…。
ニッと笑ってみた。
「なにやってんの?ほら、早くどきなさいよ」
姉が腰をグイッと押し付けてきた。その力でおれの顔は鏡の枠から飛び出してよろけた。
歯をみがきながら姉さんが言った。
「∞¢ялёжψξμ☆*#@」
何言ってんのか、わかんないよ…。
姉さんはうがいをして再び言った。
「お弁当、テーブルの上にあるからね、遅刻するんじゃないよ」
鏡を覗き込み、まつげを気にして、目をパチパチさせている。
長いまつげだ事。
「あ、ありがとう…」
タオルで顔を吹きながらそう言うと、姉さんはおれが使っているそのタオルの裾を少し引っ張り、自分の口の周りを拭いた。
姉さんの顔とおれの顔、わずか10cm…。ドキッとしたのは、おれだけ。
姉さんは平気な顔。他人じゃこんな事しないよなぁ…。
「なにが?」
「あ、べ、弁当のことだよ…。ありがとう」
「愛情たっぷり入れといたから、ありがた~く食べなさいよっ」
いたずらっぽく微笑むと、スカートをひるがえし玄関に駆けていった。
怖いけど、やっぱ可愛いなぁ…。
「いってきまぁ~す」
と、元気よく出ていく。
「いってらっしゃ…い…」
もういないけど、そう言ってあげた。
おっと、こうしちゃいられない。

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